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「秘密の花園」
*おふざけが過ぎると怒っちゃうぞ、という方は読まない方が健康のためです。
誰がどこからどの角度で見ても「愛してしまったようじゃ」状態で見知らぬ美少女を連れたセリスが現れたとき。
レスターとデルムッドとスカサハとラクチェは、申し合わせたようにそろってラナを振り返った(ちなみにディムナとトリスタンとロドルバンとラドネイはマナを振り返っていた)。
「やあみんな、そろってるみたいだね」
セリスの軽やかな声。
マナが駆け去り、兄のディムナが慌てて追いかけていく。
「…………えーと。
あ、新しい仲間を紹介するよ。彼女はユリア。レヴィンがずっと面倒を見ていたそうなんだが、レヴィンはレンスターに出掛けるため長く不在する事になってね。それで、わたしにあずけられたんだ。みんな、力になってあげてね」
「はい。もちろんです、セリス様」
即座に答えたのはラナだった。
とととと、とユリアに歩み寄り、彼女の手をそっと取る。
「こんにちわ、ユリア」
「あなたは?」
「ラナです。レヴィン様がいらっしゃらなくて心細いでしょうけど、なにか困ったりしたらわたしを頼ってね」
ユリアはラナの手をぎゅっと握り返し、「はい」と頷く。
「そうだわ。これを」
「これは……リライブの杖?」
「ええ。あなたなら使いこなせるでしょう?」
「下さるのですか? ……ありがとう。これでわたしも、みなさまのお役に立てます」
「ユリア、わたしたち、力を合わせて頑張りましょうね」
「はい……」
ユリアは受け取った杖を大事そうに抱きしめ、そしてラナと二人微笑み合う。
二人の姿にセリスは満足そうに頷き、幼なじみ達は釈然としない気持ちを隠せずにいた。
解放軍の人間は基本的に雑魚寝だが、ラナとラクチェは同室で個室を与えられていた。
そして、今晩からはユリアも加わり三人部屋になる。
ラナは、レスター、デルムッドの二人がかりで運び込んだ寝具を整えている。
ラクチェは自分のベッドで天井を見上げていたが、ごろごろと転がってラナに顔を向けた。
「ねえ、ラナ。無理してない?」
心配そうに、ラクチェは尋ねる。ラナはううん、と頭を振った。
「ホントいうとね、ラクチェ、自分でもショックを受けていないのが不思議なの」
ラナの笑みには無理も、そして他意も感じられなかった。
「みんな、わたしがセリス様を好きだって思ってたんでしょう? わたしも、そう思ってた。でも――」
「でも?」
「最近ね、ちょっと違うかも、って思ってたの。それが、ユリアと二人でいるのを見て、はっきりしたわ。わたしのこの感情は、兄さまや、ラクチェやスカサハ、デルムッドを好きなのと同じなんだって」
「ラナ……」
「それにね、ラクチェ。わたし、嬉しいの」
「えぇ?」
「わたしね、ずっと姉妹が欲しかったの。一緒にお料理したり、ハーブを摘んだりお話ししたりできる。
もちろん、ラクチェだって大切なわたしの『姉さま』よ。でも、ラクチェは一緒にお裁縫したりできないでしょ」
「ラナ、寂しかったの?」
ぽふ、とベッドに座り直し、ラクチェはラナの表情を伺う。
「ううん」
ベッドメイキングを終えたラナは、ラクチェの向かいの自分のベッドに腰を下ろした。
「ねえラクチェ、そんな顔しないで。本当に、寂しかった訳じゃないわ。マナがいろいろ手伝ってくれてたし。けど、マナはやっぱりわたしに対して他人行儀なの。身分なんてないも同じなんだから、気後れしなくていいのにね。
……だから、ユリアが来てくれて本当に嬉しいのよ。妹が出来たみたいって思ってるの」
「杖、あげちゃってよかったの?」
「ええ。わたし、母さまに杖をたくさん頂いたけど、ライブ系の杖はライブ二本とリライブ二本とリブローと計五本も持っているの。みんなの役に立つようにっていう母さまの気持ちは嬉しいけど、使い切れるものではないわ。だから、ユリアが活用してくれた方が、いいと思うの」
ユリアはシャーマンで杖が使える。
現在魔法による治療は、ラナとマナの二人の僧侶が行えるのみだった。
それがユリアが加わることによって、当社比で1.5倍の戦力となる。
「まー癒やし手が増えるってことは、わたしとしては大歓迎だけどね」
常に前線にあって生傷の絶えないラクチェの、それは正直な気持ちだった。
そして、解放軍は進撃を続けた。
亡き英雄達の遺児が次々と参加し、人員もずいぶん増えた。
杖の使い手、あるいは昇位して杖をふるう術を修得したものも増えた。
けど、回復役の主力は変わらずラナとマナとユリアだった。
特にラナとユリアは仲が良く、二人は協力しあい、怪我人達を癒やした。戦士達は彼女たちの杖よりも、和やかな雰囲気と微笑みに癒やされたという。
ところで軍内では、人数が増えた→人間ドラマが複雑になったということで、戦時中だというのに恋の花が咲いたり散ったりしていた。
ラナの親友ラクチェはいい寄るヨハンを蹴って育ての親である騎士オイフェと結ばれ、セリスへの思いを断ち切ったマナは共にティルナノグで育ったデルムッドとほのぼのしていた。
彼女連れで軍に参加したリーフ王子やアレス王子はもとより、おっとりして「絶対嫁き遅れる」(用法が逆)と妹を心配させていたスカサハでさえパティ(職業・盗賊)という恋人が出来、「盗賊の剣→あげる」で金銭的に解放軍を潤わせている。
しかし、セリスとユリアの仲は、全く発展しなかった。
それどころか端から見るに、ユリア側は「冷めてしまった」ように見受けられた。
商業都市ペルルーク。
――セリス様が、買い物に連れていってくれると約束なされたので。
そういって、ユリアが出かけたのは今朝のこと。
特に予定なくラクチェ達が中庭で自主訓練するのを見ていたラナは、ふと空気がざわめくのを感じた。
感性を研ぎ澄ます。
嫌な予感がした――大切なものを喪うような、大事なものが毀れるような。
傷だらけで意識をなくしたセリスが運ばれてきたのは、それから半時後。
昼日中の往来に黒衣の魔道士が現れ、セリスはユリアを庇ったが力及ばす倒れた。そこへ通りかかったのがスカサハとパティだが、彼らが追いすがる前に魔道士はユリアをかどわかし消えたのだという。
スカサハの説明を、思い詰めた表情でラナは聞いた。
寝台に眠るセリスの容態はラナのリライブで大分安定している。
「ラナ……」
俺達がもう少し早く駆けつけていれば、そう悔恨の念を漏らす幼なじみに、ラナは昏い笑みを向けた。
「仕方ないわ。軽装だったとはいえセリス様があっさりやられてしまったのよ。スカサハとパティだって危なかったわ」
そして再び、セリスに視線を戻す。
「……ユ…ユリア……」
うなされ、彼の人の名を呼ぶセリス。
スカサハには、そんなセリスを見下ろすラナの目がとても冷ややかに見えた。
ユリアが現れた――そう知らせが入ったのは、フリージ城を制圧した直後だった。
「だが、様子が少し――いや、かなりおかしかったそうだ」
斥候の報告を受けたレヴィンがため息をつく。
「おかしい? どういうことですか?」
「表情が虚ろで、駆け寄ろうとした斥候の者にいきなり攻撃を仕掛けたそうだ」
「攻撃を……!?」
光魔法の使い手であるユリアは、リザイアの魔道書を所持していた。しかし、軍内では後方での支援活動に徹していたし、また生来の性格もあるのだろう。彼女がその魔法を繰ることは全くといっていい程なかった。
一度だけ――敵兵が後方まで入り込み、乱戦となった時。昇位前で暴力に無力だったラナを庇って、敵兵に向かってリザイアを放ったことがあった。倒れた兵を前に青ざめ、呆然とへたり込んだユリア。
そんな彼女が、味方に魔法を放ったとは。
「恐らく、何者か――マンフロイに操られているのだろう。彼女がその名を発していたらしい」
常套句だ、とレヴィンは苦々しげにいう。
そして、ユリアを呪縛から解き放つにはマンフロイを倒すしかないだろう、と。そのマンフロイがヴェルトマー城にいるという報告は既に入っている。
ヴェルトマーへ向かう部隊へ、ラナは志願した。
――セリス様は、ユリアを見守っていて下さい。ユリアはきっと、セリス様を待っているはずです。
有無をいわさぬ迫力で、セリスにそういい残して。
ユリアがセリスの異父妹である、そう知らされたのは出撃準備を始める直前のこと。いくら好みでも気になっても愛していても、妹では結ばれない。
そして、事実を知らされたその瞬間、セリスは解放軍に残った数少ないフリーの女性であるラナ(ちなみに残り二人はユリアとアルテナ)に惹かれている自分に気づいた。だから今は、ラナの側にいたい。しかし。
そんな訳で、セリスはフリージ郊外で待機していた。
やがて、ユリアが現れる。
一方ヴェルトマー城へ向かった解放軍は、待ち受けていた敵軍を総ざらえ倒し、残るはマンフロイ一人というところに来ていた。
ヴェルトマー城内で対峙するマンフロイと解放軍。
と、いつも後方で軍の支援活動に徹していたラナが、ずいと軍の最前へ出た。
「わしが生涯かけて築いてきた物を……くっ、きさま達、許さぬ!!」
「それはこちらの言葉です。覚悟なさい、マンフロイ」
地団駄を踏む一歩手前状態のマンフロイに向かって、ラナは傲然といい放つ。
「――って、ラナ、ちょっと待て!」
レスターが慌てて駆け寄り、ラナを庇うように前に出てキラーボウを構える。
こうして、作戦もへったくれもなくヴェルトマー攻防戦最後の戦いは始まり、レスターの連続+突撃+キラーボウの必殺であっさり終結した。
「お、おのれ……ユリウス様……ロプトぐべ」
ぐべ、のところで、ラナの振り下ろしたライブの杖がクリティカルヒット。魔法を発動させない杖はただの棍棒、スカサハ並の腕力も手伝って立派な凶器となる。
マンフロイは、最後の台詞を全ていい切ることができないまま遠いお空へ旅立った。
「ユリアを苦しめた張本人は、じわじわと苦しめてからトドメを刺したかったのだけど」
ラナの呟きに、傍らに立つレスターはぎょっとし、つつつ、と後ずさりし、幼なじみでラナと仲の良いラクチェを捕まえる。
「……ラナは、ずいぶん怒ってないか?」
「ユリアのこと、ホントの妹みたいに思ってるっていってたから……わたしだって、ラナがユリアみたいな目にあったら相当キレると思うし」
「そういうもんか?」
「……多分」
一方のセリスも、マンフロイが倒れるのと連動して様子の変わったユリアに声をかけ、あっさりと正気に戻すことが出来た。
「……セリス様? わたしは……」
「マンフロイの術にかかって操られていたんだ。でも良かった、きみが無事でいてくれて。……ユリア、ごめん。ぼくがもっとしっかりしていれば」
「いいえ、これで良かったのです。わたしは自分が生まれてきた理由を初めて知りました。わたしは戦います。逃げたりなんかしません」
「ユリア……」
と、ユリアは誰かを探すかのように周囲を見渡した。
「どうかしたの?」
「いえ……あの、ラナにもずいぶん心配をかけてしまったと……彼女はいつも本当の姉妹のようにわたしを気にかけてくれていたので」
「ああ、ラナとユリアは本当に仲が良かったものね。ラナは、マンフロイを倒す部隊に入ってヴェルトマー城へ行ったよ。そういえば、珍しく自分から部隊に志願していたけど」
「そう……ラナが……」
ユリアは俯き、心なしか嬉しそうに、微笑った。
そして。
魔皇子ユリウスがユリアのナーガで倒され、聖戦は終わった。
解放軍の面々の多くはかつてのシグルド軍の者であり、王侯貴族の類となる。彼らは父母の国へ帰り、あるいは恋人の手助けをするために同行し、それぞれ国を立て直し治めて行くことになるだろう。
レスター、ラナ兄妹の父はヴェルダンの王子だったので、二人はかの国へ帰還することにした。
ヴェルダンは現在は荒れ果て、山賊の跋扈する危険な国である。
レスターは国が安全になるまではラナはユングヴィにいるように、と説得しようとしたが、ラナは聞き入れなかった。
二人が旅立つ日、グランベルの王となったセリスと、バーハラに残り逝ってしまった人たちに祈りを捧げたいと願ったユリアが、城門まで見送りに来た。
「ユリア、元気でね。あなたはあまり丈夫じゃないんだから、無理しちゃダメよ?」
そういって微笑みかけるラナに、ユリアは駆け寄る。
逡巡し、そして、
「ラナ……わたしがマンフロイに操られていたとき、あなたはマンフロイを倒す部隊に自ら志願したと聞きました」
「ああ……ユリアを苦しめた者を、わたしの手で倒したかったの。あなたの側へ行くよりも、あなたの役に立てると思ったから」
「わたし、それを聞いて嬉しかった……ラナ、いつかわたしも、ヴェルダンへ行ってもよろしいですか」
胸の前で両の手を握り合わせ、ユリアはいった。
「もちろんよ、ユリア。ヴェルダンはあなたのお母様、ディアドラ様の故郷なのでしょう? いろいろ案内できるようになるから、是非遊びに来て」
「そうじゃなくて……あの……わたしは、ラナと一緒にいたくて……」
ユリアの頬がピンクに染まる。
二人のやりとりを聞くとはなしに聞いていた周囲の者は、ギョッとしたように目を向けた。
ラナは、沈黙。
「あ……あの……」
おずおずと、ユリアが言葉を発する。
そのユリアの手を、ラナは自分の手でそっと包んだ。
「ユリア……嬉しいわ」
「「なにぃ?」」
セリスとレスターの声が見事にハモる。
「きっと……きっと来てね、ヴェルダンへ。わたし待ってるから」
「はい……絶対……」
肩を震わせるユリアを、ラナはそっと抱きしめる。
その美しい光景に、セリスとレスターはそろって倒れた。
数年後。
ヴェルダン王城に王妹ラナが拵えた花園には、二人の少女の仲睦まじい様子がよく見られた。
そして美少女二人に囲まれたヴェルダン王レスターとすっかり女性不信になったグランベル王セリスは、生涯独身であったという――
えんど。
あとがき。
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