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「軍師殿の邪な策謀」

 注:「レヴィン×フュリー絶対主義」(?)な方とアレスファンな方は読まない方が精神衛生上よろしいと思います。


 「あたし……幼い頃から、いつも誰かに見守られているような気がしていた。あれはやはり、父さんだったの? でも生きているのなら、どうして姿を見せてくれないの! あたしはずっと待っているのに、寂しくてたまらないのに……」

 ミレトスの自由都市群の一つ、ラドスを陥落させた解放軍。
 彼らは次の目的地ミレトスで対峙するであろう魔皇子ユリウス、そしてイシュタルとの戦いに備えるため、ラドス城に駐留していた。
 そして……ある想いを秘め踊り子のリーンと対話した軍師レヴィンは、彼女の嘆きに応える術なく黙り込んだ。
 しかし、

「でも、今は平気。だって解放軍のみんながいるし、なによりアレスがいてくれるから」

 そういってはにかんだリーンに、

「――そ、そうか、それは良かったな」

 微妙な間のあと棒読みでそう答えたレヴィンは、何のくぼみもへこみもない石畳でけつまづいて倒れ、起きあがろうとしてマントを踏み更に転び、見かねて手を差し出した光の皇子セリスを巻き込んで運悪くそこに存在した階段を転がり落ちていった。



 その夜。
 解放軍の主だった者達が、ユリウス対策のための会議を開いていた。

――おまえと二人で遊びたいな。反逆者を一人血祭りに上げる。どちらが早く、仕留められるか腕試しだ。

 さるスジからの情報によると、ユリウス皇子はイシュタル王女に斯様な提案をし、王女は二つ返事でのったという。
 おそらく、ミレトス近郊で解放軍を待ち受けるつもりだろう。
 「遊び」といい切られたことにリーフなどは憤慨していたが、それだけの力を彼らが持っているのは明白だった。
 犠牲を出すことなくミレトスを落とすのが理想だ。しかし。
 議場が重い沈黙に包まれたとき、包帯も痛々しい姿の軍師レヴィンが立ち上がった。

「……なぜあんな怪我を?」
「先程わたしと一緒に階段から落ちてね」

 オイフェの疑問に、こちらはライブで完治し傷一つないセリスが苦笑する。
 そんな二人に一瞥をくれたあと、軍師は口を開いた。

「色々健闘してみたのだが――」

 硬い声のレヴィンは、会議に列席していた黒騎士アレスをひたと見据える。

「アレス、お前に出てもらいたい」

 なぜアレスを、との疑問や、他に適した者がいるのでは、といった異論で場が紛糾する。
 それをレヴィンは静かに制した。

「アレスは魔剣ミストルティンの使い手で、解放軍内でも最強といって差し支えない戦士だ。機動力にも優れる。それに神器といえど魔法は魔法。魔法に対する耐性の強いアレスならば、反撃を受けたとしてもトールハンマーの一度くらいなら耐えられるはずだ」
「しかし……」

 オイフェが躊躇するのに構わずレヴィンは熱く論じる。いつものクールな態度がウソのようだ。

「ユリウス達は強敵とはいえ魔道士。体力に劣るのは明白だ。ミストルティンの一撃に耐えきるとは考えにくい。先制攻撃で上手くダメージを与えどちらかを倒せたならば、次のターンにはユリウス達は引き上げるはずだ」
「次のターン?」
「言葉のアヤだ。ユリウス達は「遊び」といい放っているが、そこにこそ付け入る隙がある。奴らは我々を弱者と侮り蔑んでいる。そんな相手から痛い一撃を食らったなら、プライドの高いユリウス皇子は冷静さを失うだろう。その時こそ勝機だ。そして、この任務をやり遂げられるのは……アレス、君だけなのだ!」

 ビシィィィッ! とアレスを指さすレヴィン。
 解放軍の面々(アレス含む)は、レヴィンの言葉に深く深く頷いた。



 …………しかし。
 ミレトス東の草原でイシュタル王女と対峙したアレスは、全ての攻撃を避けられたあげくトールハンマーを喰らい、戦場の露と消えた。



 深夜。
 ミレトス城内にある礼拝堂に、アレスの遺体は安置されていた。
 そしてその傍らにひざまづき瞑想する者がいた。
 亡きクロード神父の遺児にしてエッダの公子、またの名を「マンスターの勇者」セティである。 
 セティは、アレス復活のために聖杖バルキリーを振るうことを申し出、満場一致で可決された。
 皆、彼が解放軍にとって必要な人間であると痛切に感じているのだ。
 しかし、奇跡を起こすといわれるバルキリーの杖は、右から左へ軽くひと振りすれば死者が甦る、というモノではない。
 使用者に――といってもブラギの聖痕を持つ者しか使用できないため現時点ではセティ一人なのだが――相当の力量を要求する。
 セティ自身は高い魔力を持ち力量面では申し分はない。だが一回こっきりで壊れ修理代が桁違いな杖である。失敗は許されない。
 ……そんなワケでセティは、心を研ぎ澄まし集中力を上げるための瞑想をしていたのだった。

 ふと。
 かすかな気配を感じたセティは、怪訝に思いながらも後ろを振り返った。
 誰もいない。

――気のせいか。

 思い直して正面に向き直ったセティは、目の前に一瞬前までは確かになかったハズの人影を認めひざまづいたまま後じさった。
 深夜の心細い明かりの中、月光を背負いシルエットの強調されたソレは、セティの目の前まで歩いてくる。

「やあセティ君、せいが出るね」

 爽やかにねぎらいの言葉をかけ、セティに目線を合わせるようにしゃがみ込んだ人物は、放浪のシレジア王にして解放軍々師・レヴィンであった。

「レ、レヴィンさん……どうなさったんですが、こんな時間に」

 セティのもっともな疑問には答えず、咳払い一してレヴィンはいった。

「実は君に話があるのだが、いいだろうか」

 いつになく深刻な様子の軍師に、セティは姿勢を改め静かに頷く。
 一体こんな夜更けに何だというのだろう。グランベル軍に急な動きでもあったのか? そう考えごくりと喉を鳴らしたセティは、次のレヴィンの台詞を待った。

「君の母フュリーは我がシレジア王家の忠実なる騎士であり、わたしの大切な盟友だった」

 ……ので、いきなり母の思いで話を切り出され思い切り真横に倒れる。

「彼女は臣下の立場をわきまえてわたしに接しようとしたが、わたしにとって彼女は妹であり友人であり、大切な女性だったのだ」
「……」
「なにを寝ているのだセティ君」
「す、すいません」

 セティは慌てて身を起こす。
 レヴィンはセティの顔を覗き込み、言葉を続けた。

「そんな彼女を横からかっさらっていったクロード殿の息子の君は、わたしに借りがあるとは思わないか? いや、わたしは亡き妻を心から愛しているのだがソレはソレとして」
「はあ?」
「つまり、君はわたしの頼みを一つくらいなら快く聞いてくれても罰は当たらんと思うのだが、どうだろう?」
「……ど、どういう理屈でそうなるのか納得しがたい所もありますが……どのような用件なのですか」
「うむ、快く引き受けてくれてとてもうれしいよ」
「いやあの」
「頼みというのは簡単だ。バルキリーの杖が必要となる局面はこの先も必ず訪れるだろう。しかし……それが起こす奇跡はあまりに大きすぎる。皆がそれに頼り、緊張感を保てなくなるのはまずい。だからそんなに軽々しく使用してはいけないと思うのだ」
「つまり?」
「うむ。今回は使用を見送らないか?」

「なにをやってんですかアンタはー!!!!」

 いつの間にかレヴィンの後ろに立っていたセリスが、スリッパで軍師の後頭部を思い切りどついた。 



 セリスは冷たい目でレヴィンを見下す。
 セティがホッとした表情でセリスの後ろに逃げた。

「見回りがてらセティの様子を見に来てみれば……あなたという人は」
「い、いや、その、だな、セリスよ」
「アレスになにか恨みでもあるっていうんですか」
「いやだから」
「そうか、だからユリウスとイシュタル王女にアレスを対峙させるよう主張したんですね」
「それはその」
「全く……アレスとの間に何かあったんですか? まさか、アグストリアがシレジアの驚異になると考え、災いの芽を早いうちに摘もうと……」
「ちがーう!」

 レヴィンは慌てて否定する。

「なんと怖ろしいことをいうのだセリス。お前はそれでも光の皇子か」
「アンタ程怖ろしかないですよ。全く、味方を抹殺しようだなんて」
「そうじゃない! わたしはただ、わたしの可愛いリーンをあんな若造に渡したくなかっただけなのだ!」

 思わずそう口走り、はっとしたように両手で口を塞ぐレヴィン。
 恐る恐る目を向けると、セリスもセティも形容しがたい微妙な表情でレヴィンから目をそらした。



 その後、戦略でアレスに関わるレヴィンの意見は全て却下され、また軍師殿は親子ほども年の離れた踊り子に横恋慕しておられる、少女愛好家なのだ、というウワサが解放軍中で囁かれることになる。

「……父親だと名乗られればよろしいのに……」

 全てを知っているオイフェのツッコミだけが虚しく響く。
 

えんど。

20000308

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